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長崎地方裁判所 昭和39年(行ウ)9号 判決 1965年2月26日

原告 福地新一

被告 長崎県知事

主文

被告が昭和三八年一月三〇日原告に対し福江市北町六八〇番の二、宅地二四四坪四合、同番の三宅地一七七坪の仮換地として福江市一八街区二一画三五五坪を指定した処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として、「福江市北町六八〇番の二、宅地二四四坪四合、同番の三、宅地一七七坪は原告の所有であり、原告はその地上に店舗を所有して教科書、文房具、食糧品その他の日用雑貨品の販売を営んでいる者であるが、被告は昭和三七年九月二六日の福江市の大火のあと福江市の近代都市としての繁栄と火災予防のため福江都市計画事業火災復興土地区画整理事業の施行に着手し、土地の減歩換地により道路の新設・拡張を計り昭和三八年一月三〇日原告が従前所有する前記宅地に対し一八街区二一画三五五坪を仮換地として指定する旨の処分をなし、その処分は同日原告に通知され、なお使用開始の日は同年一二月二〇日と定められた。

然し右仮換地指定処分には次にのべるような違法がある。即ち別紙図面第一に示すように従前の原告所有宅地は間口が七間ありその西隣りには訴外山本熊次が面積七一坪二勺、間口三間半の宅地とその地上に店舗を所有して履物業を営み、同人の西隣りには訴外山村チノが面積一二一坪一合一勺、間口四間半の宅地とその地上に店舗を所有して蒲鉾製造業を営み、原告所有地の東南に接して訴外才津惣太郎が二一坪四合八勺の宅地とその地上に家屋を所有して旅館業を営み、原告、山本、山村の各宅地の前には巾約六米の道路(通称新栄町通り)が東西に通じ山本の宅地の前から北東へ右新栄町通りと丁字型に巾約八米の道路(通称酒屋町通り)があり、これに面して訴外平川光丸が商人町八〇一番の五において面積三四坪五合間口一、八間の宅地とその地上に店舗を所有して陶器販売業を営み原告及び山本、山村の各宅地は右二つの通りが丁字型に交叉する場所附近を占め、ここは福江市において最も商業の繁栄する一等地をなしているのであるが、被告が原告のほか右各訴外人等に対してもした仮換地指定の結果新栄町通りは巾一六米に拡張され、酒屋町通りは新栄町通りを貫き西南の方向へ延長されて新道が設けられ、別紙図面第二に示すように山村は新栄町通りと新道との一方角地に面積七九坪五合二勺、間口一〇間の仮換地を、山本はその向かい側の角地に面積四七坪七合、間口三間半の仮換地と山村の仮換地の新道沿の南隣りに面積一三坪五合、間口二間半の仮換地を、才津は更にその南隣りに面積一六坪、二合間口三間半の仮換地を、商人町の平川は山村の東隣りに面積三〇坪四合七勺間口二間半の仮換地をそれぞれ指定され、山本と山村はいずれも新栄町通りと酒屋町通りの交叉する角地に当る営業上最も有利な一等地を与えられたのに対し、原告は山村の仮換地の角地の西端から新栄町通りに沿つて一二間半、新道に沿つて一二間も離れて平川の東隣りに間口五、五間の仮換地を与えられたに止まり、原告が従前山本、山村と共に等しく営業上の一等地を所有していた事情は何等考慮されることなく、山本と山村のみが最も有利な角地を与えられしかも山本は角地のほかに新道に面しても原告よりは右角地に近い場所を得、ひとり原告のみが右両名に遥かに劣る七等地を与えられたばかりか、従前表通りに面しない袋地を所有するにすぎなかつた才津が原告よりも前記山村の角地に近い新道沿の場所に仮換地を与えられ、また原告の従前の宅地より営業上不利な酒屋町通りで営業していた平川が原告よりも前記角地に近く山村の東隣りに仮換地を指定されていることは原告のみを甚だしく不利益に扱うものであり、更に原告と右各訴外人の従前の宅地の間口と仮換地の間口とを新栄町通りに面する部分につき比較した場合、山本は増減なく、山村は二、二二倍、平川は一、三九倍といずれも従前と同一若しくは増加しているのに対しひとり原告のみが実に〇、七八七と減を示し、以上の事実からみて原告が近隣の者に比し著しく不公平不合理な扱いを受けていることは明らかであつて、この不公平不合理は土地区画整理法第八九条第一項が、換地を定めるにおいては換地と従前の宅地の位置、地積、利用状況環境等が照応するように定めるべき旨規定しているにも拘らず、被告が十分これを考慮しなかつたことから生じたものであり、その点で被告のした本件仮換地指定は違法を免れないところ、原告は昭和三八年三月二七日建設大臣に対し審査請求をしたが未だその裁決がないので、本訴において右処分の取消を求めるものである。」とのべた。

(証拠省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として「原告がその主張の宅地を所有してその主張うのよな営業を営み、被告が福江市大火のあと原告主張のような土地区画整理事業を施行し原告に対しその主張のような仮換地指定処分をし、この処分が昭和三八年一月三〇日原告に通知され、使用開始の日が同年一二月二〇日と定められ、原告が同年三月二七日建設大臣に審査請求をしたが未だ裁決のないことはいずれも認める。

然し仮換地指定は仮の処分にすぎないからこれに対する不服申立は許されず、原告は宜しく土地区画整理法第八八条第三項以下の規定に従い換地計画に対してその主張のような不服を申し立てるべきものである。然らずとするも本件仮換地指定は被告が土地区画整理法第九八条第三項に定める土地区画整理審議会の意見を聞いて行なつたもので適法な手続を経ており、その限りにおいて本来被告の自由裁量に委ねられた事項にほかならないから違法を云々する余地はなく、原告の主張は被告の処分の不当を理由とするものであつて失当であり、仮に自由裁量でないとしても、原告主張のような不公平不合理が存するものとは認められない。」とのべた。

(証拠省略)

理由

原告が福江市北町六八〇番の二、宅地二四四坪、同番の三宅地一七七坪とその地上に店舖を所有して教科書、文房具、食糧品その他の日用雑貨品の販売を営んでいる者であり、被告が福江市大火のあと福江都市計画事業火災復興土地区画整理事業の施行者として昭和三八年一月三〇日原告所有の右宅地につきその主張のような仮換地指定処分をなし、同日右処分が原告に通知されたことは当事者間に争いがないところ、当裁判所は、被告知事のした右仮換地指定処分が行政処分として当然抗告訴訟の対象となること、その場合裁判所がその処分内容についての実質的審査権を有するものと考える。右見解に対しては多く異論をみないから、これらの点に関する被告の主張は理由がなく、以下において右処分に原告主張のような違法が存するか否かを判断する。証人川口一、塩塚岩松、福地正登、田中武熊(但し後出の措信しない部分を除く。)の各証言、原告本人尋問と検証(第一、二回)の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、従前は別紙図面第一に示すように間口六、八九間の原告所有宅地の西隣りには山本熊次が面積七一坪二勺間口三間半の宅地とその地上に店舖を所有して履物業を営み、同人の西隣りには山村チノが面積一二一坪一合一勺、間口四、八間の宅地とその地上に店舖を所有して蒲鉾製造業を営み、原告所有地の東南に接して才津惣太郎が二一坪四合八勺の宅地とその地上に家屋を所有して旅館業を営み、原告、山本、山村の各宅地の前には巾約八米の新栄町通りと称する道路が東西に通じ、山本の宅地の前から北東へ右新栄町通りと丁字型に巾約八米の酒屋町通りと称する道路があり、これに面して平川光丸が商人町八〇一番の五において面積三四坪五合間口二、一四間の宅地とその地上に店舖を所有して陶器販売業を営み、原告及び山本、山村の各宅地は右二つの通りが丁字型に交叉する場所附近を占めていたこと、被告の施行する区画整理事業は土地の減歩換地により宅地を整序し道路の新設、拡張を図るものであり、その換地計画の結果新栄町通りは巾一六米に拡張され、酒屋町通りは新栄町通りを貫き西南の方向へ延長されて新道となり、別紙図面第二に示すように山村は新栄町通りと新道が十字に交叉する一方角地に間口九、四間面積七九坪五合二勺の仮換地を、山本はその向い側の角地に間口三間半面積四七坪七合の仮換地と山村の仮換地の新道沿の南隣りに間口二間半面積一三坪五合の仮換地を、才津は更にその南隣りに間口三間半面積一六坪二合の仮換地を、商人町の平川は山村の東隣りに間口二、七九間面積三〇坪四合七勺の仮換地をそれぞれ指定されたこと、以前は平川の営業する酒屋町通りが船の発着する大波止に近い関係で最も暖かであつたが最近ではバス利用の客がふえてきたためにバスの発着所に近い新栄町に繁栄の中心が移り、酒屋町通りに面する平川のあたりよりは酒屋町と新栄町が丁字型に交叉する附近から西へかけて最も客の流れが多く、従つてその附近は地価も最高を示し、そこを占めていた原告、山本、山村の各宅地相互間には殆ど優劣はなかつたことが認められる。証人田中武熊の証言中右認定に反する部分は前顕各証拠に照らし措信し難く他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。

右認定の事実によると山本と山村は換地計画により生じた酒屋町通りと新栄町通りとが十字に交叉するところの角地をそれぞれ与えられたのに対し、原告の仮換地は山村の占める角地の西端から新栄町通りに沿つて約一二間半、新道に沿つて約一二間もはなれ右両名に比し著しく不利な扱いを受けたばかりか、原告従前の宅地より等級の劣る酒屋町通りで営業をしていた平川が却つて原告よりも前記角地に近い有利な場所を与えられ、また新道に面する部分についても、新栄町通りに面する最高の角地を与えられた山本と従前表通りに面しない袋地を所有するにすぎなかつた才津がいずれも原告よりも前記角地に近い有利な場所を与えられており、従前の宅地の間口と仮換地の間口を新栄町通りに面する部分について比較してみると山本は増減なく、山村は一、九倍、平川は一、三倍といずれも従前と同一若しくは増加し、殊に山村の如きは実に九、四間の間口を得ているのに反しひとり原告のみが〇、七三一と減を示していることが認められる。証人田中武熊は、原告の従前の宅地の形状が奥行の深いものであつた点から考えて不適正な換地とはいえない趣旨の供述をしているが山本、山村の従前の宅地も奥行の深いことでは原告とさしてかわらぬ形状であつたことが第一回の検証の結果により明らかであるから、右証言は当らない。

従つて客の流れが前認定のように酒屋町通りから新栄町通りを曲つて西へ進むものである現在文房具、食糧品その他の日用雑貨品の販売に従事する原告が仮換地で営業を継続するにおいては従前に比し特に小売の面で相当の減収を来すことは原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証並びに同本人尋問の結果に照らし推測に難くない。勿論減歩換地を施行すれば従前の宅地の地積、形状、位置、環境等が人により異る関係上多数の関係者の公平を期することは至難のわざで、不利を忍ばねばならない者が生ずるのも已むを得ない所であり、この不利を是正するために清算金の制度が設けられているのであるが、換地計画の立案に参画した証人田中武熊の証言に徴するも換地による犠牲は可能な限り平等に負担させるべく、その間著しい不公平を生ずることは避けるのが当然である。

従つて土地区画整理法第八九条第一項が換地計画において換地を定める場合においては換地及び従前の宅地の位置、利用状況、環境等が照応するように定めなければならないと規定している趣旨(仮換地指定についても第九八条第二項で準用)に鑑み、右にいう照応の度合が近隣の者に比し著しく不公平であるときはその者に対する仮換地指定処分の違法を来すものと解するを相当とするところ、原告に対する本件仮換地指定処分が右の意味において著しく不公平なものであることは叙上認定したところによりこれを肯認し得るから右処分は違法であり、取消を免れないものというべきである。(地積の減歩率につき特に原告が有利な扱いを受けているならば右の不公平も忍ぶべきことが考えられるが前認定の原告及び各訴外人の従前の地積と仮換地の地積を対比するとき、そのような事実の存しないことは明らかである。)

よつて右処分の取消を求める原告の請求は正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀川清 福間佐昭 萩尾孝至)

別紙第一図<省略>

別紙第二図<省略>

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